刑事告訴には、特に注意するべきことがあります。
刑事告訴は、取消(とりけし)をしてしまうと、同一の被害で、もう一度刑事告訴をすることができなくなります。
それなので、刑事告訴を取り下げるときはよく考えて、慎重に決定しなければなりません。
再度告訴をすることができないという決まり事

整理をしておきますと、犯罪の被害を被った者(告訴権者)は、告訴を行うことができます。これは刑事訴訟法の第230条に規定されていますので、間違いありません。
一方で、金銭と引き換えに、告訴などを取下げる(取消す)ことは可能です。
当サイトでも、たびたび紹介してきた通りです。示談金(和解金)などを詐欺師から提供させ、その結果として告訴を取り下げるという方法です。
ただし、とてつもなく重要な注意点があります。それこそが、告訴を取消た場合、再度同一の被害で告訴をすることはできないということです。
これは、刑事訴訟法の第237条で明記されています。
刑事訴訟法 第237条 1.告訴は、公訴の提起があるまでこれを取り消すことができる。 2.告訴の取消をした者は、更に告訴をすることができない。 3.前2項の規定は、請求を待って受理すべき事件についての請求についてこれを準用する。 |
この部分です。
2項目に書かれているとおりで、告訴を取消してしまうと、刑事訴訟法に基づいて、告訴権者は、刑事告訴を同一事件で行えなくなります。
それなので、告訴の取消は慎重にならなければならない、ということです。
報復感情を満たせるかどうかが、分岐点

刑事告訴は、犯罪被害者などの告訴権者が、刑事罰(国家の定めた刑法上の罰則)を与えて欲しいと申告をすることです。
それなので、犯罪被害を被った被害者は、当然ながら加害者を憎んでいるはずです。
また、詐欺であれば大切なお金をだまし取られてしまったので、お金を可能ならば取り返したいという思いもあると思います。
つまり、
1 詐欺師への報復感情
2 被害金を取り戻したいという思い
この2点が、存在していると思います。これは、どちらも正しい思考・感情です。
詐欺は刑法上の犯罪なので、許されるべきことではありませんからね。犯罪者は憎まれても仕方がありません。
しかし、損得で考えるならば、お金が取り戻せる保証がありそうであれば、告訴を取り下げてしまうというのも、賢い方法であると言えます。
被害回復給付金支給制度がありますので、もし検察が詐欺師を起訴し、刑事裁判にかければ、まず間違いなく有罪になります。
その後、被害回復給付金支給制度の対象になれば、詐欺師に刑事罰を与えた上に、お金を取り戻すことも可能です。
ですが、検察が確実に詐欺師を起訴してくれるかというと、その保証は残念ながらありません。
犯罪白書などの統計でも、検察庁の不起訴処分の件数は非常に多く、逮捕されたものでも約半数が不起訴で終わっています。
また、逮捕されずに書類送検で検察まで送致された事件については、何と7割~8割前後の事件が、不起訴で終わっているのです。
それなので、検察が被疑者を起訴してくれる保証が無い以上、報復感情を確実に満たせる保証は、残念ながらありません。
検察が詐欺師を起訴してくれることを信じて、告訴を取下げなかったのは良いものの、肝心かなめの検察が、詐欺師を不起訴にしてしまう可能性も、高いのです。
もし不起訴で終わってしまえば、詐欺師が刑事罰を科されることも無く、また和解金を受け取れる見込みもありません。
それなので、私個人の意見としては、
「絶対に詐欺師を許せない!お金は取り戻せなくても良いから、刑事罰を与えたい!」 |
・・・上記の思いがあるかどうかで、決断されると良いと思います。
どちらでも正しい価値観・感情
もし刑事罰よりも、お金を取り戻すことのほうが大切ならば、詐欺師と和解できる機会に、お金で和解を成立させましょう。
そして、告訴を取り下げることになります。
これは、どちらが正しいか、間違っているか、ということではありません。
あくまでも、被害者(告訴人)の、価値観・目的の違いです。

お金を取り戻せれば、刑事罰に拘らないという方もいると思います。
逆に、お金ではなく、刑事罰を徹底して与えたいという被害者の方も、決して少なくないでしょう。
・刑事罰を何としてでも優先するのか
・確実にお金が取り戻せる保証があるうちに、お金を取り返すことを優先するのか
私は、どちらも正しく、優劣をつけることはできないと思います。
詐欺師が憎い、許せないという思いは、私も騙された経験がありますので、痛いほど良く分かりますからね。
その上で、最後は被害者自身が決断を下して下さい。
ただし、告訴を1度取下げ(取消)してしまった場合は、2度目の告訴は、同じ事件ではできません。
そのことをお忘れの無いようにして下さい。
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